IoT のビックデータを設計に活用できるか?

2020年9月23日

ビジネスデベロップメント
ディレクター

1998 年 PTC ジャパンに入社。アプリケーションエンジニアからテクニカルマーケティング、また Pro/ENGINEER Wildfire(現 Creo)の開発にも従事。入社以来、現在も CAD 関連で活動し、新製品/新バージョンの紹介や、主に設計に対して新しい提案活動を行っている。

IoT のビックデータを設計に活用できるか?

はじめに

最初の CAD が誕生して 60 年が経とうとしており、今となっては、設計にとって必須のツールとなっています。その間 CAD は目覚ましい進化をし、多くの物理現象をデジタル上で再現し、製造も CAD モデルを使って行うことが出来るようになっています。ただ現状では「デジタルとフィジカル(実物)の融合」とまでは行きません。解析を駆使しても、完全な状態とは言い切れず、また諸条件の入力は想定の域を出ません。また、製造に関しても、CAD データがそのまま作成できるわけではなく、製造する為の生技設計が必要で、そのために人のノウハウによる諸条件の入力が必要になります。

しかし最近のデジタル技術の発展、大幅なデジタルに関するコストダウンにより、大きな前進がありました。製造では、付加製造と呼ばれる 3D プリンタにより、今までノウハウを駆使して生技設計をしていた複雑な機構が簡素化されます。また、AR (拡張現実)により、デジタル情報を実際のフィジカル上に投影し、物理世界だけでは把握できない情報を同時に理解することができます。(このブログを書いている最中に、カーナビに AR を搭載したと言うニュースがありました)

付加製造も AR もデジタルをどのようにフィジカルと融合させるか、という試みです。その逆、フィジカルからデジタルに情報を投影するには IoT 技術が有効です。実際の製品や試作品の状態をセンサーによりデジタル化し、それを CAD へ入力することで、より正確に実際で行っていることをデジタル上で再現することができます。これにより正確な諸条件の入力が可能になります。いわゆる「デジタルツイン」です。デジタルとの双子であるデジタルツインは、CAD である必要はありませんが、1D 解析や表、グラフより大きな洞察を与えてくれます。さらに、設計環境に直接つながることにより、製品設計により良い影響を与えることができます。これが CAD でデジタルツインを行う理由です。IoT によって蓄積されたビックデータが活用されてないという現実がありますが、設計改善に利用するというのは、1 つの有効な手段だと考えます。

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IoT ビックデータを設計に活用する

IoT のビックデータを設計へ活用するユースケースには以下が考えられます。
  • 実際に顧客が使っている製品の情報からその使い方を抽出し、新製品の開発に活かす
  • 実際の製品、または試作品の実験データをより早く可視化し、素早く問題の改善を行う
では、どのように IoT のビックデータと設計と連携させられるのでしょうか?Creo Parametric の「Product Insight」を使用すると簡単に接続できます。

  1. 計器アセンブリを作成する
    設計中のアセンブリに対してセンサーを付けるのも可能ですが、分離したい場合は、新規アセンブリの「インストルメント化」を作成することもできます。センサーなど追加が、現在進行中、またはリリース済みのアセンブリに影響を与えることがありません。

  2. センサーの設定を行う
    Creo がセンサーと認識するのは、その部品にセンサー属性が付いているかどうかになります。その部品に、センサーがどのような値(長さ、角度、温度など)を受け取るか、を入力することで、Creo が自動でセンサー部品と認識します。ジオメトリがある必要はありません。

  3. センサーの情報と CAD との連携
    センサー部品をアセンブリに組み付け、そのセンサーで受け取る値をどのように CAD と連携させるかを、設定します。例えば、センサーで得た角度を直接アセンブリ寸法に代入することで、部品がセンサーと合った動きを行うことや、パラメータに代入することで、解析の入力条件にすることも可能です。また、シリーズパラメータとして取り込むことで、機構解析のサーボモーターの値としても使用可能です。センサーの値は、Creo の中でパラメータ化することができますので、活用方法は膨大にあります。

  4. IoT のプラットフォームと接続
    ここまでくれば、後は IoT データの取得です。PTC の所有する IoT のプラットフォームである「ThingWorx」と直接接続することができます。「ThingWorx」にあるセンサー情報と Creo に設定されているセンサーのマッピングを行い、Creo からの操作で、何時から何時までのどのデータを持ってくるかの選択が可能です。ThingWorx を持ってなくとも、CSV ファイルの読み込みも可能です。

このように比較的容易に IoT のビックデータを利用し、「デジタルツイン」を実行することができます。レーシングカーのメーカーである Griiip 社で Creo Parametric の「Product Insight」を試した時に、以前から持っていたテストコースでのデータを Creo に入れデジタルツインを行う事で、縁石にタイヤが乗り上げた際に車体が浮く状態になることが視覚的に確認することが出来ました。その後、すぐにシャーシの剛性の問題に取り組んだそうです。

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このように、実際の製品の振る舞いを観察しても、数値やグラフだけでは分からないような情報を CAD による「デジタルツイン」では可能になります。


バーチャルセンサー

IoT のビックデータを CAD につなぐ事のメリットはそれだけではありません。今後は逆に、デジタルからフィジカルへデータを融合させることもできます。これには「バーチャルセンサー」を使います。実際の世界に存在するセンサーを「物理センサー」と呼ぶのに対して、実際には存在せずバーチャルの世界にしかないセンサーを指します。このセンサーは、例えば実製品で知りたい情報のセンサーが搭載されてない、またはそのようなセンサー自体が非常に困難、などと言う場合に使用されます。重心の位置を測りたい場合、1 つのセンサーで図ることはまず無理です。ただし、CAD 上になればボタン 1 つで測定可能です。この情報を測ることが出来るのがバーチャルセンサーになります。この測定したデータを IoT のプラットフォームに戻すことが可能です。ある製品に対して直接収集したセンサーデータとともにバーチャルセンサーのデータを持つことで、完全なデータセットを持つことが出来ます。また、AR を活用することで、バーチャルセンサーの値を実際の製品に投影し、いままで分からなかった情報を瞬時に理解することもできます。

さらに「バーチャルセンサー」は AI の分野にも活用できます。多くの会社で取り組もうとしている AI を活用した工場の機器などの予知保全。この活動を進める上での課題として、あまり故障が行らないことによる学習データ不足ということもあるようです。この学習データ不足を補うために、デジタルの世界で故障させる方法があります。デジタルの世界であれば壊し放題です。例えば、考えられる荷重範囲に荷重をランダムにかけ、壊れるかどうかの計算を大量に行います。この荷重とその位置を学習データにすることにより、危険な歪がかかっていることがすぐに判別できます。その値を取得して CAD に渡し、解析をかけるより、AI に学習させることでリアルタイムでの判断が可能になります。

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まとめ

Creo の起源である Pro/ENGINEER が発売され 30 年が経ちました。それでも尚、最新の技術を取り込みながら成長しています。さらに「デジタルとフィジカルの融合」を目指し、開発を続けていきます。今後の Creo にもご期待ください。
芸林 盾

ビジネスデベロップメント
ディレクター

1998 年 PTC ジャパンに入社。アプリケーションエンジニアからテクニカルマーケティング、また Pro/ENGINEER Wildfire(現 Creo)の開発にも従事。入社以来、現在も CAD 関連で活動し、新製品/新バージョンの紹介や、主に設計に対して新しい提案活動を行っている。

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