ビジネスデベロップメント
ディレクター
1998 年 PTC ジャパンに入社。アプリケーションエンジニアからテクニカルマーケティング、また Pro/ENGINEER Wildfire(現 Creo)の開発にも従事。入社以来、現在も CAD 関連で活動し、新製品/新バージョンの紹介や、主に設計に対して新しい提案活動を行っている。
幾何公差とは図面における形状の誤差を許容する範囲を示すもので、意図した品質を確保するために欠かせません。今回は幾何公差の定義・種類・記号の意味を解説し、図面での正しい適用方法について詳しく説明します。
記事の最後で Creo のお客様導入事例もご紹介しておりますので、ご興味ある方はぜひ最後までご覧ください。
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幾何公差は測定の観点でサイズ公差(寸法公差)と比較すると分かり易いでしょう。サイズ公差はある点から点の距離です。それに対して幾何公差はジオメトリ自体の許容範囲を示しています。そのためサイズ公差のみでは、意図しない形状でも検査に合格する場合がありますが、幾何公差は測定方法が特定されるため、意図通りの品質が担保できます。
最近では 3D アノテーション付きモデル (3DA) を作成する際に、幾何公差が使われます。ジオメトリに直接指示する相性の良さだけではなく、寸法と比べアノテーションの数を減らすことができます。
JIS B 0021:1998 の幾何公差の定義は以下のように規定されています。
4-1. 形体に指示した幾何公差は、その中に形体が含まれる公差域を定義する。 4-2. 形体とは表面、穴、溝、ねじ山、面取り部分又は輪郭のような加工物の特定の特性の部分であり、これらの形体は、現実に存在しているもの(例えば、円筒の外側表面)又は派生したもの(例えば、軸線又は中心平面)である。 |
(出典:日本産業標準調査会 JISリスト)
つまり、CAD 的に考えるとモデルを構成する面、または面の集合が実在する形、そしてデータム平面や軸などから派生したものを形体とし、それらの公差域を定義するものです。
ISOはISO 1101 で幾何公差が定義されています。JIS はできるだけ ISO の定義に合わせていますが、ISO 1101 の最新版は 2017 で、JIS と大きく乖離しています。企業によって幾何公差は ISO に準拠するところも出てきています。
また米国で使われている幾何公差はASME Y14.5 で規定されています。
「寸法公差」の方がしっくりくる方も多いと思いますが、2016 年に発行された JIS B 0420 によって幾何公差と併用を考えて「サイズ公差」へ名称変更したものです。「サイズ公差」は長さなどの大きさを規制し、幾何公差は形体や姿勢、位置、振れなどを規制します。そのため、どちらかを図面に書くのではなく併用します。
幾何公差の種類を分けると、「形体」「姿勢」「位置」「振れ」に分けられ、それぞれ以下があります。
また、幾何公差の種類は、単独形体と関連形体に分かれます。
単独形体とは、その形状自体に指定するもので上記の表の「形体」が、それにあたります。関連形体は他との関係性を指定するもので「姿勢」「位置」「振れ」が、それにあたります。
上記の表の「データム指示」を見てもらうと、単独形体である「形状」の部分がすべて「否」になっているのが分かるかと思います。他の形体と関連付けることなくその単体で決まります。
よく使われる平面度は平行な 2 つの平面で挟んだ時の距離 (t) が指定した公差内に入っているか、で決まります。他の形体との関係性は問われませんので、斜めになっていてもそれが二平面の距離が指定した公差内に入っていれば問題ありません。平面度は滑らかさを表現しており、データムとして指定された形体や他の幾何公差などと一緒に使う場合がほとんどです。
同じように円筒度は2 つの同軸の円筒で挟んだ時の距離が指定した公差内に入っているかになります。円筒度の場合も他の形体と関連付けをしないので、形体自体の軸にも関連付きません。そのため円筒度の場合公差値に対して “φ” を入れたくなると思いますが、これは間違いです。
関連形体は他の形体との関係により決まるものになります。上記の表の「データム指示」を見ると、関連形体である「姿勢」「位置」「振れ」の部分で「要」になっていますが、このデータム指示により他の形体と関連付けを行います。
幾何公差を使用する大きなメリットは「正確性」だと言えます。寸法が点と点の距離であることを考えると、幾何公差がどれだけ正確に形状を表現できるかは明らかです。設計意図を汲み取って製造してくれる日本の場合はサイズ公差のみでも高い正確性の製造をしますが、海外の場合は(正確ではない)図面通りに製造されてきて、もめた事がある方もいるのではないでしょうか? また、3DA モデルととても相性が良いのもメリットです。まず寸法などのアノテーションの数を減らすことができ、作業効率を上げることができます。ある調査では、2D 図面の寸法と幾何公差化したアノテーションを比較すると、アノテーションの数を5 割から 7 割削減できる製品もあるようです。また正確であるため、3D モデルとの相性もよく、自動化や他システムとの連携を容易に行えます。
幾何公差の枠には左から幾何特性の記号、公差値、(必要であれば)データムを記入します。公差域が円や円筒であれば φ、球であれば Sφ を公差値の前に付けます。共通公差域である CZ や突出公差域Ⓟなども、公差位置と同じ枠内に記入します。ⓂやⓁの実態状態ですが、こちらは公差付き形体に対する場合は公差値の枠へ、データムに対する場合はデータムの枠へ記入します。1 つの形体に対して複数の幾何公差を指示することができますが、姿勢公差は位置公差よりも厳しい値でなくてはいけません。位置で指示した公差値よりも大きい場合は、姿勢を指示する意味がないからです。
また公差値の引出線位置でも意味が変わってきます。例えば直線寸法の寸法線と同一線上にある場合やその中心、寸法線とずれている場合は、その寸法補助線が出ている形体に対して指示します。
複数のデータムを基準とする場合、どのデータムが優先されるべきでしょうか。測定する際の事を考えると、とても分かりやすいと思います。例えば穴位置を測るとき、まず台の上に配置しますが、これが第一優先のデータムになります。その次に当てる部分が第二優先となります。ちなみにデータムですが、製品側のデータムを「データム形体」、そのデータム形体と合わせ測定する台を「実用データム形体」と言います。単に「データム」と言う場合は、理想的な状態(例えば、完全な平面)を指します。
幾何公差の指示ミスを防ぐには、支援ツールの活用が効果的です。PTCの3D CAD 「Creo」 は、規格に合致した幾何公差を 3D 上で作成するためのツール「GD&T Advisor」を提供しています。このツールでは規制したい形体を選択すると、その形体で可能な幾何公差のみ指定できるだけではなく、単純ミスを防ぎ、データム指示など多くの部分を自動化します。そして、3DA に必要なセマンティック情報も追加し、手動で作成した幾何公差が規格と合っているかを検図できる機能も備えており、サイズ公差から幾何公差へのスムーズな移行を支援します。3D 上の幾何公差を、2D 図面で使用することもできます。 Creoに搭載されているGD&T Advisorなどの幾何公差解析ツールについての詳細は、eBook「Creo モデルベース定義 (MBD) 機能の進化」をダウンロードして確認してみてください。
すでに海外では幾何公差が標準になっています。日本でも3DA 化を行うために今まで幾何公差を活用してなかった業界でも使用が進むことが確実です。そして、ずいぶん長い間更新されていなかった幾何公差の規格である JIS B 0021 の更新作業が行われています。この JIS の更新は幾何公差への移行を行う絶好のタイミングです。ぜひ3DA や DTPD (Digital Technical Product Documentation) を進める上でも、幾何公差への移行をご検討ください。
以下にPTCの3D CAD「 Creo」 を活用して設計業務を最適化した企業の導入事例を紹介しますので、こちらもぜひご覧ください。
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