CAE とは何か
CAE は、「Computer Aided Engineering」の略で、日本語は「計算機援用工学」と訳されます。力や流体などの物理現象について、コンピューター上で技術計算やシミュレーション、解析を行うことを指しますが、それを行うソフトウェアそのもののことをいう場合もあります。取り扱う物理現象によって適した計算プログラムや手法があるため、CAE のソフトウェアもそれぞれの物理現象ごとに存在します。
今日の CAE の基となるプログラムは、商用のプログラム内蔵コンピューターや、数値解析手法の有限要素法 (Finite Element Analysis : FEA) が登場した 1950 年代に、航空宇宙分野から事例が出てきています。ボーイング社による航空機の翼の強度計算プログラムや、アメリカ航空宇宙局 (NASA) の「アポロ計画」における構造解析ソフトウェアのプログラム「Nastran」がよく知られています。
1970 年代から 1980 年代にかけて、商用のコンピューター解析ソフトウェアが増え、NASA のような研究組織に限らず民間企業へ広がっていきます。Nastran は、1970 年代にソフトウェアベンダー MacNeal-Schwendler Corporation(今の Hexagon)によって商用化されています。その後、SASI(Swanson Analysis Systems:今の ANSYS)が設立され、1983 年に同社は電磁場解析のソフトウェアを商用化しています。
コンピューターを使用してエンジニアリングを行うという CAE という言葉自体は、3D CAD を開発していた SDRC(現在のシーメンスに吸収)の創設者であるジャック・レモン (Jack Lemmon) 氏が 1980 年に提唱したのが最初と言われています。Parametric Technology Corporation(現在の PTC)が立ち上がったのは 1985 年でしたが、その頃は、3D CAD を用いたコンピューター技術による設計が大手の航空機メーカーや自動車メーカーを中心に行われ、その中で CAE も広まってきていました。
CAE は、「人が行っていた、物理現象に関する技術計算をコンピューターが代替することで、設計開発の効率を高めながら品質も高めること」が基本的な考え方ですが、世の中のコンピューターやソフトウェアの進化に伴って、その範囲や次元が進化してきています。
CAE の活用は、それぞれの企業の機械設計で 3D CAD を使用していて、3D データが流通していることが前提です。また、CAE は計算工学や物理現象をモデル化するための知識が必要なため、設計の担当者ではなく、シミュレーションや解析、計算工学などに詳しい研究寄りのエンジニア(解析専任者)が担当するのが主流でした。
しかし、1990 年代終盤以降、OS の「Windows」やそれを搭載したパーソナルコンピューター (PC) の普及が加速し、CAE ソフトウェアの簡易化のトレンドに伴って、設計担当者自身も CAE を使用して解析にかかわるようになっています。現在流通する 3D CAD にも、初級~中級レベルの CAE が組み込まれていることが多く、CAE 側も 3D CAD 連携を前提とした機能を多く実装しています。
CAE が活用される業界・場面
CAE はコンピューターの発展や、PC の普及に伴い、さまざまな業種の民間企業や、大学・研究機関で広がっていきました。
自動車
自動車業界は、最終製品メーカーやティア1サプライヤー(1 次請け)を中心に 3D CAD が長年使われており、CAE の取り組みも活発で、製造業の各分野の中では先行していると言われます。設計が複雑で実機コストが高い上に、最終製品の品質が人命に係わるためと考えられます。
1990 年代から 2000 年代にかけては、クレイモデル製作や実機試作をコンピューター上でのシミュレーションに代替させる動きがよく見られました。特に自動車の実機試作は 1 台当たりのコストが大きいため、コスト削減の効果としては分かりやすいものです。現在は、設計初期段階で CAE を実践することで、後工程の手戻りを削減して、開発期間全体を短縮する取り組みがされています。
この数年、自動車業界では、電動化や自動運転技術が非常に求められるため、最終製品メーカーでは、機械と電気、ソフトウェアと、従来は個別で行ってきたようなシミュレーションを密接に連成させています。(連成解析)実際の制御機能を実装した自動車を 3D データで再現して検証するバーチャル検証が推進されています。
最終製品メーカーやティア 1 サプライヤーなどに部品を納める立場である部品加工業においては、CAE の活用状況は二極化しているような状況です。例えば、古い汎用機メインの手作業が中心の工場では、CAE 以前に、コンピューターを使用した取り組み自体が、「必要がない」と消極的です。その一方で、自動機や CAE を積極的に導入する、あるいはデータ収集と活用を行うスマートファクトリー化を進めている工場もあります。
電子工学・エレクトロニクス
エレクトロニクスは、今や幅広い業界で電動化やソフトウェア化が進んでいることから、対象が産業機械、事務機器、家電、半導体など幅広く、取り扱われる製品分野、企業規模、製品の複雑さ、生産数、経営や設計の文化などによって CAE をどの程度熱心に活用しているかがまちまちとなっています。
例えば、1990 年代後半から 3D CAD 活用が進んできた事務機器や家電では、CAE も併せて多く使われています。その一方、産業機械では装置の形状や仕様によって 3D CAD の普及状況が異なり、今も 2D CAD 主体の設計を続ける企業も少ないわけではなく、よって CAE 活用もその状況次第です。
CAE の活用方法としては、詳細設計がある程度完成した段階で解析専任部門が製品の強度や性能について詳細に解析する方法や、3D CAD で設計をしながら強度計算を行う方法があります。
設計初期段階での CAE 活用については、大手メーカーを中心に自動車業界の項で説明したような連成解析やバーチャル検証の事例も見られるようになっていますが、設計者自身が CAD のアドイン機能で行うような部品単体での強度解析など初歩レベルにとどまっている企業もまだ多くあります。
ヘルスケア
医療機器や器具、人体で使用するインプラントなどの開発でも、CAE が活用されています。医療分野の規格は厳しく、市場に出すための認証にも時間がかかるため、できる限り開発期間を短縮することが望まれます。その上、自動車と同様に人の命を預かる存在であって、人体に接触させる、あるいは体内で使用するものも多いので、装置品質の基準も独特かつ厳しくなります。このような事情から、医療機器では CAE を積極的に活用しながら複雑な設計の効率を高め、機器の形状や挙動が人体へどのような影響を与えるのかも含めて、設計の初期段階から慎重に検証していきます。
医療機器や器具の開発だけではなく、医療現場でも CAE が使用されています。例えば、人体の臓器や血流の挙動を見て病理研究に利用する、実際に手術をする前にどのような手順で手術を進めるかシミュレーションを行うなどがあります。
CAE の必要性とは
CAE の活用で目指すのは、設計開発の効率や生産性の向上、開発コストや開発期間の削減です。
CAE 要求度合いは、製品のエラーが許容できない、製品設計が複雑で高度になる、さらに実機コストが多額であるほど、“必要に迫られて” 高くなるといえます。
現在、市場に流通する製品の多くが電動化やソフトウェア化がされており、インターネットに接続してサービス提供するものが増えていることから、「機械は機械設計部門が」「電気は電気設計部門が」のような縦割りの設計分担ではこなせなくなってきています。
世の中の製品は、総じて複雑化しており、かつ市場の変化が非常に激しいため、上記のような “必要に迫られる” こと以外で、これまでになかった付加価値を提供して市場競争力を高めるための CAE 活用も必要です。
CAE で何ができるのか
CAE では、物体へ加わる力のかかり方、空気の流れ、熱の伝わり方、電磁場の発生など、目に見えづらい・見えない物理現象について、コンピューターがそれぞれの物理現象に適した計算プログラム(ソルバー)を用いて計算し、PC 画面の CG で物理現象を可視化することが可能です。
また、現在の CAE の技術では、さまざまな物理現象を 1 つの 3D モデルで再現し、PC 画面の中に実機がデジタルデータで再現されたような状況を作り出すことが可能です。
CAE のメリットについて
シミュレーション
CAE のコンピューター上の仮想空間しかできないことがありますが、分かりやすい例の 1 つが宇宙開発でのスペースシャトルや人工衛星などの開発です。それらは宇宙空間で使用されるものですが、人が毎回宇宙空間へ行き、実験を行うことは不可能です。そもそも、宇宙空間は人が生身で立ち入ることができません。そこで、CAE で宇宙空間の条件を再現し、そこでシミュレーションを行い、仮想的に実験ができるようになります。コンピューターによるシミュレーションが宇宙開発から始まったのには、このような理由もありました。
宇宙空間と同じように、原子炉の中や、何千メートルもの高所など、人命の危険がある環境を考慮したい場所、また、微小な製品や材料分子の中など現実世界では人がどう逆立ちしても立ち入れない場所を考慮したい場合でも、CAE の利点が生きます。
さらに、実機を作るコストが不要で、コンピューターの中で何回でもトライ&エラーができることも利点です。「失敗は成功の母」とよく言われますが、CAE の中では、何度も失敗できるということになります。また CAE では、実機を作る試作と比較すると、何倍どころか、何百倍、何千倍レベルで繰り返しの実験が行えます。CAE であれば、生身の人では一生かかってもできないような実験を何度も行えます。
コストの削減
CAE を活用するメリットの 1 つに開発コストの削減があります。設計開発の中では、新規の機構の動きや強度の確認、製品全体の挙動確認などのために、部品の一部分や製品全体を模したものを試作します。実物を作るためには、製作費用が発生します。設計中の試作は繰り返し行って問題点を抽出し、それを設計へ反映させるため、何回か行うことになります。今まで実物の試作をして行ってきた検証の一部を CAE に置き換えることで、その分の試作品製作費用が抑えられるほか、工数削減でコストを抑えられるようになります。
また、「設計開発における品質やコストは、設計段階で8割が決まる」と言われます。これは、設計段階で見落としたミスやエラーが、設計開発後期の試作中や市場投入後に表面化すると、設計のやり直しや実機の作り直しで大きな損失になることを示しています。そこで、設計のなるべく初期段階で CAE を活用してミスやエラーを発見し、後工程での手戻りを減らし、開発全体のコスト削減につなげていきます。それが「フロントローディング」と呼ばれる概念であり、国内外のメーカーで浸透してきています。
開発期間の短縮化
CAE 活用のもう 1 つのメリットが、開発期間の短縮化です。開発期間短縮の観点でも、実物試作を CAE への置き換えは有効です。外注製作や実験がなくなれば、期間も短縮することになります。
また、設計者が自分自身で CAE シミュレーションを使用すれば、担当範囲で技術的な問題の洗い出しが何回も行えるため、1 つの設計案件にかかる設計作業の時間を減らすことも可能です。熟練技術者に毎回確認しなくても、自発的に検証できる項目を増やすこともできます。さらにレビューや打ち合わせでも CAE の結果を用いて分かりやすく説明ができ、多忙な関係者たちの時間を無駄にすることもなくなります。このような設計者自身が行う CAE シミュレーションは、「設計者 CAE」といわれます。
開発期間短縮の効果として大きく寄与するのが「コストの削減」の項で述べたフロントローディングです。開発後期での設計のやり直しや実機製作のやり直しはコストを上げるばかりではなく、開発スケジュールを長期化させる、あるいは製品リリースを遅らせる原因にもなり得ます。CAE によるフロントローディングを実践することで、開発スケジュールの遅延を防ぐほかにも、従来の進め方による開発期間よりも大幅に期間短縮が可能です。メーカーが発表している CAE の取り組み事例でもその効果についてよく語られています。
このように開発期間を短縮化することで、時間にゆとりが生まれ、その時間で設計をより高度化させたり、設計品質を向上させたりできるといったメリットにもつながります。
環境への配慮
CAE によるシミュレーションを使うと、環境配慮面での効果もあります。CAE に置き換えた分、実験機器を稼働させる際、あるいは実機製作中の CO2 排出がなくなるほか、試作品を廃棄する必要もなくなります。さらに CAE を設計に取り入れることで、発熱電球から LED に置き換える、省エネルギーになる装置にするなど、環境に配慮した設計を効率よく行えます。
現在、求められている環境配慮問題への対応は、「GX(グリーントランスフォーメーション)」と呼ばれることがあり、一昔前の環境配慮設計よりも規模が大きくなっています。国際的に解決を強化し、社会課題となっている温室効果ガス問題を受けた CO2 削減に積極的に寄与することを目的としています。製造業の各企業では、カーボンニュートラルなど CO2 低減・削減への積極的な取り組みについて、経営者が中長期の経営方針として掲げることも増えています。そのため、設計だけではなく、ビジネスや製品ライフサイクル全体(設計から市場投入、廃棄まで)を見渡して検討しなければなりません。CAE を含むデジタル設計開発を実践しなければ、これを全うするのは非常に厳しいでしょう。
CAE は DX にどんな効果がある?
CAE も設計開発を効率化するためのデジタルツールの 1 つです。またデジタルトランスフォーメーション (DX) においても重要な役割を担い、かつ設計開発を飛び越えて活躍することになります。(デジタルトランスフォーメーション (DX) とは?)
CAE によるシミュレーションを用いて CG で可視化すれば、技術に明るくない設計開発以外の部門の人や顧客に対して、実機ができる前から、PC の中にあるデジタルデータの製品を使って、挙動や性能について分かりやすく説明できるようになります。これが、顧客や経営層、関係者、あるいは投資家などの速やかな決断や決済を促すことにつながります。
先ほど説明した環境配慮対応については、経営課題と大いにかかわりがあることから、CAE を活用した検証をすることで、開発中に自社製品について顧客やユーザーに環境配慮について理解してもらう、対外的なブランドアピールへとつなげるといったことも期待できます。
CAE の具体的な解析内容
以降では、CAE による解析シミュレーションの主な分野(対象とする物理現象)について、具体例とともに解説します。CAE は、取り扱う物理現象によって、計算のためのプログラムの作りが異なり、ソフトウェアもそれぞれ独立したものがあります。
構造解析
構造解析を行うためには、応用力学の一種である材料力学の知識が必要です。材料力学では、材料の持つ強度などの物性を踏まえて、その材料で構成する形状の一部分に荷重がかかった時の、応力(物体に外力(荷重)が加わった際、それに応じて物体内部に生ずる抵抗力のこと)や変形の値を計算します。代表的な計算手法には、計算したい構造物を微細な「要素」に分割して計算する有限要素法があります。
構造解析では、装置や部品にかかる荷重により生じる応力や変形の値をソフトウェアのプログラムが計算して、CG の 3D 形状や色で可視化します。これにより、部品について構造的に弱い部位や、補強すべき部位などを検討します。
構造解析では、荷重が増えるごとに応力や変形もそれに対して大きくなる値を計算する「線形解析」と、「だんだん荷重をかけていくと、やがて急にへたって破損する」といった時間経過を考慮した変化を考慮した計算をする「非線形解析」があります。
具体例:
- 筐体や部品を勘合するためのラッチが勘合の際に破損しないかを検証する。
- 軽量化のために部品形状を元形状からなるべく強度を損なわないよう肉抜きをする際、強度に大きな影響がない部分を調べる。
流体解析
流体解析では、液体や気体、熱などの流体の挙動や空気抵抗などの性質をシミュレーションします。流体は、時間経過により流れながら変化するため、時間の流れを考慮した解析、つまり非線形解析の一種です。「数値流体力学」とも呼ばれ、英語では、Computational Fluid Dynamics であり、略して「CFD」とも言われることもあります。流体解析ソフトウェアでは、さまざまな流体の動きをコンピューターの画面で、色付きの流線などで分かりやすく表現します。
流体解析をするにあたっては、流体力学(流体工学)の知識が必要です。一口に流体と言ってもいろいろあり、その挙動も非常に複雑で多岐にわたるためか、流体解析で使用されているプログラムの種類は、構造解析よりもたくさんあります。
流体の計算では、特に、乱流という、文字通り「乱れた流れ」の計算の難易度がより高くなります。さらに科学的に解明中の現象もあり、コンピューターが計算しやすくするために物理現象を方程式にした「モデル」というデータで再現しきれないものがまだまだあるといわれています。流体解析のソフトウェアのアップデートがある度に、「〇〇モデルの実装」といった情報がよくあるのはそのためです。
具体例:
- 走行した自動車のボディ周辺に空気抵抗がどの程度生じるかを検証する。
- 製品が稼働している際に電子基板上で熱源となっている部品や、効率よく熱を外へ逃がす方法などを検証する。
- マスクをした人が咳をした際に唾液などが飛散する様子を可視化する。
電磁界解析
電磁界とは、「電気のある空間」である電界と「磁気のある空間」である磁界が組み合わさった空間のことをいいます。電流や磁気がお互いに影響し合いながら、「電界があれば磁界が生じ、磁界があれば電界が生じる」ということを繰り返しながら波を作って、遠くまでそれが伝わります。その波のことを「電磁波」といいます。電磁界は、電気を使って動くあらゆるものに存在します。
出典:経済産業省 電磁界とは
電磁界(電磁場)解析とは、電磁界の現象についてシミュレーションする技術です。英語では、Electromagnetic Field Analysis であり、略して「EFA」と言われることもあります。その基本的な考え方となっているのが、「マクスウェルの方程式」で、1864 年からある古い方程式です。自然界で起こる電磁界の現象は、4 種類の方程式でほとんど表現できるといわれています。コンピューターや CAE ソフトウェアがまだなかった頃は、マクスウェルの方程式を用いた電磁界の計算のことを指していました。
電磁界解析には、時間によって変化しない電界を扱う静電界解析、時間によって変化しない磁場を扱う静磁界解析、磁場が変化することにより導体に電流が流れる現象を扱う電磁誘導解析などがあります。
電磁界解析でも、構造解析でよく用いる有限要素法が使われます。構造解析では解析対象となる部品など、構造物(物体)を要素で細かく分割しますが、電磁界の場合は物体のほか、空間も要素分割します。
具体例:
- モーターを小型化する際に、損失となる原因を突き止め、効率の高いモーターを実現する。
- 通信機器の障害が起こらないように、各部品から発生する電磁ノイズを遮断する方法を検討する。
光学解析
光学設計は、カメラや眼鏡、顕微鏡などで行われます。光学設計では、設計者が狙う光の性能(光学特性)を出すため、レンズやミラーなど光学部品の形状設計や、照明、遮光板、ミラー、レンズなどで光学部品の最適なレイアウトや機構の検討などを行います。LED を用いた照明機器の光学特性を評価するのも光学設計の一部です。
「幾何光学」は光の軌跡などを対象に計算しますが、「物理光学(波動光学)」は、光を波動として扱い、電磁界と同様にマクスウェルの方程式を用いて性質を計算します。
光学解析ソフトウェアでは、光学設計に用いられるため、「光学設計ソフトウェア」と言うことも多くあります。光学部品が作り出す光線の流れ、光の波長、光度、照度、輝度、光の散乱などを計算して可視化します。照明光学解析では、光学系が作り出す照明が、部屋や製品がどのように人の目に映るかを 3D CG で表現します。
照明の評価での 3D CG は、最近では VR(仮想現実)システムと組み合わせて、3D データに没入して、照明が作りだす空間をバーチャルで体験しながら評価する仕組みも登場しています。
具体例:
- 光通信機器の光プローブや光ファイバーの性能を評価する。
- カメラのレンズ機構の設計を評価する。
- 自動車の車内照明を点灯した際のコクピットの様子を再現する。
- レーザー加工に用いるレーザービームを検証する。
CAE を活用する方法
メーカーで CAE を活用するタイミングは、「ある程度設計が完成してから」と「設計をしながら」の二通りになります。前者は古くから行われている従来型の流れで、後者は比較的新しい流れで「設計者 CAE」もしくは「設計 CAE」と言います。
以下では、2 つのプロセスのおおよその流れを説明します。
- 従来型の CAE の例
従来型の CAE 活用では、構想設計後、部品設計がある程度固まり、3D 形状や設計情報が整備できてきた段階で、解析専任部門が設計部門から依頼されて行います。
①企画 → ②仕様・設計要件の決定 → ③設計 → ④CAE 専任部門の解析 → ⑤設計へフィードバック、修正 →(④と⑤の繰り返し)→ ⑥試作 → ⑦量産
解析専任者はあくまで数値解析や計算力学のプロであって、設計には直接かかわらないことが多いものです(中には、両方に詳しい人もいます)。また、設計部門と解析専任部門が別部署である場合、解析部門は社内のさまざまな部署の解析を受託していることが多く、かつ小規模なチームで対応していることもあり、個別の設計部署に張り付いて解析を手伝うなどは困難なことが多くあります。
設計者は計算力学を改めて覚えなくてすみ、設計に専念できる体制ともいえますが、設計が進んだ段階で解析の結果を得ることになり、設計修正の負荷が大きくなり、かえって開発工数が多くなるというデメリットがあります。 - 設計者 CAE の例
設計段階での CAE は、設計者自身が初級・中級レベルの CAE を計算機のように使いながら設計を進めます。解析専任者は設計者の知識では手に負えない難解な解析を担当したり、設計者の知識でも活用できる自動計算ツールやテンプレートを整備したりします。
①企画 → ②仕様・設計要件の決定 → ③設計⇔設計検証範囲の CAE(設計の過程で反復する)→ ④解析専任者によるハイレベルな解析の実施 → ⑤試作(もしくはなし)→ ⑥量産
従来のメーカーは、設計と解析は別部門の組織であることが多かったため、この手法を採用するには、解析部門を設計部門に組み込む、あるいは設計部門の直下に解析専任者を配属するなど、設計組織の改編、設計プロセスの大きな見直しや工夫が必要になります。
さらに、上で述べた設計者 CAE の例よりも、もう少し早いタイミング(さらに上流)で CAE を活用する場合があります。それが「1DCAE」※1 と呼ばれる手法で、仕様や要件の決定の段階から CAE を行います。設計者 CAE の進化版ともいえます。
①企画 → ②1DCAE(仕様・設計要件の決定)→ ③設計⇔設計検証範囲の CAE(設計の過程で反復する)→ ④解析専任者によるハイレベルな解析を行う → ⑤試作(もしくはなし)→ ⑥量産
1DCAE の実践段階では 3D 形状は当然存在しないため、製品のシステム構成や仕様を「モデル」として表現して、最適な設計仕様や設計要件を決定します。いわゆる「モデルベース開発 (MBD)」と呼ばれる概念です。この段階で、エラーにつながりかねないような設計の問題がある程度洗い出されるため、設計フェーズもしくはそれ以降で行うCAEや試作も最小限で済むなどの効果があります。※1:1DCAE は、1 次元という意味でなく物事の本質を的確に捉え、見通しの良い形式でシンプルに表現することを意味します。(日本機械学会 設計工学システム部門 HP より引用。https://1dcae.jp/about/)
CAE の課題と将来性について
国内製造業での CAE 活用は、欧米製造業と比較すると遅れていると言われています。CAE 以前の設計の3次元化がそもそも遅れているためです。実験や実機試作が主体の設計開発が行われるケースもまだ見られます。
製造業で CAE ソフトウェアを導入したり、技術計算のハードウェア環境などを整えたりする際には、推進担当者は、IT と工学計算、社内の開発事情など、一通り、かつある程度理解している必要があります。IT ベンダーやコンサルに導入や構築を依頼するとしても、彼らとの会話が成り立たなければなりません。このような人材は、国内製造業に豊富にいるわけではありません。
企業内で CAE が導入・運用されていても、解析専任部門による受託解析が主流である、あるいは社内に受託解析部門もなく、3D CAD に付属した構想解析ツールで梁計算など基礎レベルでしか使用していない場合も多くあります。
設計者自身で CAE を実践する体制にするためには、設計者側には従来の設計ではあまり必要にならなかった有限要素法の知識習得などしてもらう、解析専任者には設計開発に従事してもらい設計の経験を積んでもらうなど、まずは技術者教育をどのように行っていくかを検討することが重要です。
CAE の活用体制を整えるには、企業が乗り越えるべき課題は多いものの、設計者 CAE の体制が整えば、複雑な設計仕様にも対応でき、開発スピードがアップすることで市場の変化に強い設計開発体制になります。ひいては、それが企業の競争力となっていきます。
CAE は自社に合うものを選ぼう
CAE ソフトウェアの種類は今や多岐にわたり、システム規模もさまざまです。自分たちが CAE を用いて何がしたいか目的を明確にした上で、必要な機能を備えたソフトウェアを選定しなければなりません。
選定の際に考慮するポイントは、下記です。
- 必要な解析分野は何か
- 設計者が使うのか、解析専任者が使うのか(ソフトウェアの難易度)
- サーバーやソフトウェアを、オンプレミスにするか、クラウドにするか
- 導入コストやランニングコストは現実的か
- 汎用ソフトウェアか、専門ソフトウェアか
おびただしい数のソフトウェアの全てについて熟知するのは不可能であるので、IT ベンダーや SIer などに相談して決めることが多いでしょう。しかし、ソフトウェア提供側は逆に「自社のことを全てお見通し」というわけでは当然ないため、目的を明確にして、ソフトウェアに必要な要件が具体的に伝えられなければなりません。また、そこでしっかりと歩み寄って議論をするためには、IT や CAE に関する用語理解もある程度必要です。
また、特定のソフトウェアを検討する際には、IT ベンダーや SIer に計算速度や結果の精度などを評価するベンチマークデータを請求することが可能です。導入後に性能の問題に気が付いたのでは、追加でコストがかかる、再度、違うソフトウェアを検討し直さなければならないなど、損をすることになりかねないため、しっかりと検証しておきたいところです。
企業のソリューションなら PTC
3D 設計システムの Creo と連携する、設計者のための有限要素法の CAE です。Standard では、線形構造解析、固有値解析、線形座屈解析、定常熱伝導解析に対応、さらに上位版では、非線形解析や動解析、非定常熱電装解析に対応します。メッシュ生成の初心者でも正確にメッシュが切れるようアシストする「アダプティブ P 法」を採用しているほか、「AutoGEM」による自動生成も可能です。
「Creo Flow Analysis」
Creo と連携する、流体の流れを簡単にシミュレーションすることができる流体解析(数値流体力学)ツールです。ビギナーズチュートリアルで、設計者にとって難しく感じる流体解析の使い方をサポートします。
<その他 Creo のシミュレーション拡張機能>
Creo Parametric は拡張機能を使って広範な解析に対応することが可能です。
「Behavioral Modeling Extension (BMX)」
設計要件をパラメータとし、最適な 3D モデルを作成する最適化設計ツールです。Creo Simulate の計算結果をパラメータとして扱うこともできます。
「Human Analysis Extension」(HAX)
人が絡む設計問題を解析するヒューマンファクター解析ツールです。
「Clearance and Creepage Extension (CCX)」
クリアランス・沿面距離解析ツールです。
「Generative Design Extension (GDX)」
指定した荷重を基に、安全率や製造方法を考慮し荷重に耐え得る形状生成ができるジェネレーションデザインツールです。
「Mechanism Dynamics Extension」
動力学的な機構解析シミュレーションツールで、結合反力等をCreo Simulate の境界条件として活用できます。
「Mold Analysis Extension」
樹脂流動解析ツールです。
「EZ Tolerance Analysis Extension」
一軸方向に限定した使い易い公差解析ツールです。
<アンシスとの共同開発>
アンシスは PTC のアライアンスパートナーです。
「Creo Simulation Live」
Creo とアンシスの「ANSYS Discovery Liveリアルタイムシミュレーション」を組み合わせたシステムです。Creo を使用しながら CAE が使用できます。GPU の力で、結果が瞬時に得られます。メッシュ作成もソフトウェアがやってくれます。
「Creo Ansys Simulation」
Creo でアンシスの Ansys Mechanical のソルバーが使用できます。
まとめ
CAEは、激しい市場競争の中で、複雑な製品を素早く開発しなければならない製造業にとって不可欠なツールであり、製造業がDXを推進する上でも重要な役割を担います。
製品設計で CAE のシミュレーションを活用することで、製品開発コストや開発期間を短縮するとともに、製品品質向上もかなえます。特に、設計のなるべく初期段階でCAEを活用することで、より高い効果を望めます。
新型コロナ問題や円安、半導体問題など、今、製造業にはさまざまな課題・問題が襲いかかっている状況です。これらを乗り越え、企業を存続させていくためには、CAE や DX によって、強く、しなやかな設計開発体制を作ることが不可欠であると言えます。
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